闘病記「100針への道」

第2巻 顔と腰

注意! 筆者の予想以上に長文です。面倒だから分割していません。エディタにコピーして読むことをお薦めします。

 右足骨折から3年後の1984年。

私は無事に高校を卒業(4年かかったが)し、父親の薦めと簿記珠算程度では

男のデスクワークが知れてるってことで大学に進学した。

男のデスクワーク、それはコンピュータである。

とくかく早く就職したかったのと、高校で1年遅れたことで短期大学を選んだ。

工業経営科情報処理コースという・・・学部なのか?

まるで専門学校のようなネーミングだね。

そこに通学するのに、公共交通機関を使うと1時間以上かかるのだ。

バイクだと、約20分でつく。

以前のバイクはあの事故で廃車になっていたけど、何故か自宅に赤いホンダタクトがっ!

こいつは弟が乗っていたものなんだけど、既に弟はCBXに乗っていたので余ってたのね。

夏場はそいつで通っていました。

 とある晴れた秋の日。私は大学に向かい石山通りを走っていました。

体重が重いせいもあるけど、どんなにアクセルふかしても最高で50キロしか出ません。

私はクルマの邪魔にならないように歩道と車道の間、車道外外側線だっけ?路側帯だっけ?

とにかく左端をトコトコ走っていた。

バイクのいいところは渋滞が無く、駐車場所に困らないことです。

クルマの混み具合によっては、たとえ左端をノロノロ走っていてもバイクの方が早いです。

当然、混んでるクルマを抜きます。

クルマを抜く時には左ウインカーがつかないか注意します。

つかないことを確信してから抜きます。

 

 右前方を走ってるタクシーは絶対に左折しないと確信しました。

交差点でもないし、歩道に客もいなかったから。

そして抜こうとした瞬間、タクシーが左に寄ってきました。

寄ると同時に側面のウインカーが点滅し始めました。

どう考えてもハンドルを左に切ると同時にウインカーレバーを入れたとしか考えられません。

どうやらタクシーは急に思い付いてガススタンドに入るつもりだったらしいです。

私がいくら30キロで走っていても止まれません。

歩道の段差とタクシーの前輪あたりにタクトの前輪がぶつかりました。

スクーターはそこで止まりましたが、慣性の法則で

私は飛びました。

歩道側で歩行者がいなかったのが幸い(したのか?)し、顔面から歩道に叩き付けられました。

運悪くヘルメットはしていません。

前回の事故で割れたので所有していませんでした。

 腰も強打しました。顔よりも腰が痛かったです。

「痛ててっ・・・」

ん?足・・・動く、手・・・動く、腰痛い。

前回のような走馬灯は無かったからたいした怪我じゃないだろう。

打撲って程度だな。私が上半身を起こすと通行人から悲鳴があがる。

嘘!そんなに不細工?違う?あれ?よく見えない。

眼鏡がどっかに吹っ飛んだみたい。

なんだか顔が生暖かい。

そして冷たい気もする。

水たまりにでも落ちたのかな。

おやぁ?触ってみる。

「なんじゃあ、こりゃぁ!」

真っ赤じゃん。

顔がヒリヒリってよりビリビリしてきた。

そうか、アスファルトに顔面から落ちて大根おろし状態になったんだ。

あ、回りが救急車って騒いでる。又、乗ることになるのか。

 救急隊員が言う「目の前に整形外科があるけど、どうします?」

え?嘘!なんてラッキーなの!

救急車呼んだ人って馬鹿ぁ?

でも、そこで私の頭脳は考えた!1ミリ秒で。

評判は悪いが松○整形外科に行けば、あの美しい看護婦さん達に又会えるじゃん。

「す、すいません・・・以前、入院したことのある整形外科があるんで、そっちにお願いします」

救急車無駄になんなくてよかったね。おほほ。

でも、見た目って不思議ね。

足が折れてるより、顔が血だらけの方が重症に見えるのね。

心臓が弱い人やお年寄は見ちゃ駄目よ。力道山VSブラッシーと一緒!

 眼鏡が割れたのは痛いね。

だって日常生活に支障をきたすほど悪いのよ。

0.0いくつだもの。検眼表の馬鹿でも見えそうな一番上のでっかいのが見えないのよ。

あれが見えたら0.1。見えないと一歩づつ前に出るの。

0.09、0.08、0.07・・・って。情けないっす。

そのかわり、エッチビデオのモザイクは眼鏡を外すだけでボンヤリクッキリ見えます。ええ。

 

 病院に付くと相変わらず受け入れ態勢が出来ていない。

そりゃそうだ。

前回は救急当番だったにも関わらずレントゲン室前で1時間も重病患者を放っておく病院なんだもの、

当番でもない日は他の患者と扱い一緒。

順番待ちさせられたような気がする。

「○○君!(本名)どうしたの!?」

「へへへ、又やっちゃいました」半年もいたんだ。

新人さん以外は全員顔見知りだじぇい。

唯一の誤算は相変わらず粒ぞろいの美人が多いんだけど、

私ランキング1〜5位(そんなにいたんかい!)は全員結婚退職していたのだ。残念。

 

 しばらくして診察室の隣の処置室という部屋に連れていかれる。

我慢すれば歩けないことはない。

顔の血をふいてもらう。しみます。痛いです。

顔中擦り剥き傷なんだから。それもアスファルトで。

鼻の横にちょっと大きな切り傷があるらしい。

眼鏡の鼻当ての部分だ。

でも、鼻が折れた訳じゃないし、割れた眼鏡が目に刺さる訳でもなく、よかった!?みたい。

よっ!爺!久しぶり!

「相変わらず太ってるな」大きなお世話だよ!会うなりそれかい!

で、結局鼻の横だけ縫うことに。

あああぁぁぁ!傷の近くに直接部分麻酔は痛い!ついでにと右目の横も縫われました。

はい、ここで3針プラス1針、合計71針

 

 細かい傷が顔中なので、誰がどう見てもミイラそのもの。

やっぱりこれって相当重病に見えるみたい。

相部屋の人もひいてるもの。

感情をあらわに喋ると痛いから、喋る言葉も棒読みだし。

あの・・・実は腰の打撲の方が痛いんですけど。

あ、そうですが湿布だけ。はい。

 

 3年ぶりの病院は随分と変っていた。

建て増ししたらしく、病室も増えたし変なところに廊下がある。

爺、悪どい商売してまんな。

相変わらずいい評判は聞かないのに。

お気に入りの看護婦さんがいなくなったのも淋しいんだけど、一番ショックだったのはベッドへの移動方法。

なんかハンドルをクルクルすると移動してんの。

パンツ見れないじゃん!

あんなに痛いふりをしたのに。こらこら。

 

 警察が事情聴取に来ました。

前回は私のせいなので常に低姿勢を通したけど

(前回は未成年だったので家庭裁判所にも行った。見た目が真面目そうってことでおとがめ無し。)、

今回は悪くないもんね。

100%タクシーが悪い!ウインカーも遅い!

でも、こっちも動いていたから、10対0にはならないんだって。

ちっ!でも、こちらの言動で最悪二度とタクシー運転手出来無いかもしれないんだって。

ちょっと、可愛そうだったから、

「相手にどういう処罰を望みますか?」

の質問に「それなりで結構です」と答えました。

結果、その運転手がどうなったかは解りません。

上司という人が1回見舞いに来て謝罪されただけだから。

来いよ!本人!

でも、大学の単位の関係上、顔の包帯が取れたら行かなきゃならないので、

病院からは只でタクシー送り迎え。

途中、寄り道出来無いのがツライ。

ちょっとだけ、かなりお金持ちのおぼっちゃまの気持ちがわかる。

 

 で、顔の包帯が取れました。

わはは!顔中かさぶただらけ。

恐る恐る鼻の縫い傷を触ってみる。

・・・ゴリゴリ・・・ん?なんか異物感が。

ゴリゴリ。やっぱり。

爺を呼べ!爺!

「あれぇ?何か入ってるみたいだね」

あれぇ?じゃないだろ!どうしてくれるんだ!

抜糸ももうすぐだったんじゃないのか!

「ちょっと切ってみるか」

ちょっとじゃねーよ!

あ、部分麻酔用意してるし!いてて!

サクッ、コロン。

中から割れた眼鏡の破片が出てきました。ちゃんと確認しろよー!

又縫うのかよー!やっぱりヤブだぁー!

はい、ここで4針、合計75針

 

 その後、特に変ったことは無し。

さすがに男でも顔だったせいか細かく縫ってくれたしね。

傷跡は言わなけりゃほとんど気付かれません。

本当は2週間で退院出来たんだけど、保険の関係上1ケ月いろ!

と親父に言われたのでいました。

 

 普通免許で「巻き込み確認」ってのを一応やるけどね、

ドライバー全員が常に確認してくれてるとは限らないから気をつけようね。

 それからヘルメットはかぶりましょう。

今は当たり前だけど、格好つけて首に引っかけてる馬鹿!

つまんないことで死ぬことになるよ。

高い生命保険にでも入っとけ!

髪形気にする位ならバイクに乗るな!