第3話 「会社」
「mavis君、今日も遅刻かね?」
上司で店長のBabaさんだ。
ハイテンションで怒ることが無いかわりに、ネチネチとした言葉のボディブローが得意だ。
「全く君は・・・」
「すいません!急ぎの修理があるので失礼します!」
まだ何か言いたそうだったが、その場を逃れて3階のリペアルームへ急いだ。
俺の仕事は楽器の改造や修理だ。
レプリケーターを使えば大抵のモノは作れるけど、通常の食事以外は非常に高価で滅多に使われることは無い。
だから、人の手による修理の需要がある。
ここは日本最大の楽器店「Ball Lights」の東京稲城支店。
22世紀後半、殆どの音楽がコンピュータによる演奏になったものの、演奏する楽しさ、人間にしか出せない独特なノリ等が見直され、プロもアマも本物の楽器に対する需要が高まったのだ。
未だに日本製よりアメリカ製のFenderやGibsonに人気があるのは悲しい事実だ。
と言いつつ、自分でもFenderを使ってるあたり矛盾している。
「mavis、またBaba店長にチクッと言われたんだって?」
地下1階ギター売場のMushi-Zonoだ。
俺がベースのアマチュア・バンド「USB」のギターでもある。
「いつものことだよ」
「ま、いいや。じゃあ、昼飯はいつものkomachiだな」
「あぁ」
そう言えば、朝飯食ってないんだ・・・
非常用なのに頻繁に使ってるハイポ・スプレーで空腹を満たす。
栄養満点で手軽だけど、味わう楽しみが無いのが最悪だ。
午前中の仕事を終えた俺はKomachiに向った。